三人で暮らしているだけなら、穏やかに生きていける。
なのに、離れて暮らす満帆さんの影響力が大きすぎて、三人の関係に致命的なヒビが入りかねない事態が起きている。
そのことに対して、おばあちゃんもまた理不尽さを感じていることは理解できた。

「そうだな。とにかく一度満帆と話し会おう」

「近いうちに、わたしが東京に行ってくるわ」

そう言って納屋から出ていこうとしたおばあちゃんが立ち止まった。
学校から帰ってきた凪が、納屋の外でふたりの話を聞いていたのだ。

凪が怯えた顔でおばあちゃんを見た。

「お母さんになにするの?」

「凪……」

「お母さんをいじめないで」

その言葉に、おばあちゃんは首を横に振った。

「いじめたりしないわ。ただ、あなたのことが心配だから……」

「だったら僕が東京に行く!」

凪が全身で叫んだ。

「凪!」

凪の言い方があまりにおばあちゃんへの配慮を欠いていて、おじいちゃんは初めて凪を怒鳴りつけた。

大きな声で名前を呼ばれたことで、凪はいっそう興奮して叫んだ。

「なんで関係ない人が僕たちのことに口出すんだよ! 僕とお母さんのことなのに」

おばあちゃんは凪の言葉に固まった。

おじいちゃんは思わず凪を叱りつけた。

「凪、なんてことを言うんだ! おばあちゃんは誰よりもお前のことを思って!」

「知らないよ! 僕はこんな人知らない! 僕におばあちゃんなんていない!」

そう言って、凪は家を飛び出していった。

おばあちゃんはショックのあまり、追いかけることもできず、その場にへなへなとしゃがみ込んだ――。