「その夜、妻と遅くまで話しあった。もしかしたら凪には手紙から書いた人間の思いを読み取る力があるのかもしれない、と。でも、それは凪にとって不幸なことなんじゃないかって、漠然とした不安があった。ただ、わたしも妻も、凪の特殊な能力にばかり気が向いていて、その後になにが起こるのか忘れてしまっていたんだよ」

思い出すとつらいのか、おじいちゃんは苦しげだった。
込み上げてくる感情を抑え、できる限り淡々と話してくれていたけれど、それでも苦しさが伝わってきた。


――翌朝、起きてきた凪は無口だった。
おどおどと怯えた顔で席につき、茶碗(ちゃわん)にご飯を装ったおばあちゃんに「ありがとうございます」と小さくお礼を言った。

「どうしたの、凪ってば。随分しおらしいのね」

おばあちゃんは凪の様子をおかしがっていたが、凪のこわばった顔は変わらなかった。

おじいちゃんは前日の手紙のことがあったから、そのせいでいつもと様子が違うのかと思っていた。
しかし、朝ご飯の後、凪がとことこと自分のそばにやってきた時、事態の深刻さに気づいた。

「おじいちゃん、あのおばあさんは誰?」

つぶらな瞳でまっすぐおじいちゃんを見つめる凪の目は、嘘をついているようにも、冗談を言っているようにも見えなかった。

「凪、なにを言ってるんだ? お前のおばあちゃんじゃないか」

「おばあちゃん……?」

「そうだよ、もう五年も一緒に暮らしてる、お前のおばあちゃんだよ」