「多分、夜の仕事を始めていたんだろうな。凪を預けに来た頃より派手になっていたし、久しぶりに凪に会ったというのに心ここにあらずでね。男がいるんじゃないかと思ったんだ」

そうして、東京での生活を詳しくたずねたおじいちゃんと満帆さんは口論になり、満帆さんはとっとと東京に戻ってしまったのだそうだ。


――それ以来、満帆さんから連絡が来ることはほとんどなくなってしまった。

おじいちゃんとおばあちゃんは、学校が始まって友達もでき、だいぶ生活になじんできた凪を見ていて、今の満帆さんの元に凪を返すことが正しいと思えなくなっていた。
そして、できる限りずっと自分たちの手元で凪を育てるという覚悟を決め始めていた。

それから、満帆さんから凪に手紙が来たのは、二年後のことだった。

小学校三年生になっていた凪は、久しぶりの手紙をとても喜び、自分で封を開けて読みだした。

おじいちゃんとおばあちゃんは少しの不安を感じながらも、凪の様子を微笑ましく見守っていた。

ところが読み終わった後、凪は不安そうな顔になった。
そして、じっと手紙を見つめると、そっと手のひらを手紙に当て、途端にわなわなと震えだした。

「お母さんはもう僕のことなんていらないって思ってる!」

そう言っておばあちゃんに抱きつくと、大声で泣きだした。

おじいちゃんはあわててその手紙を読んだ。そこに書いてあるのは、『凪と会いたいけど、まだ一緒に生活できる力がママにはまだない。もうしばらく待っていてね』という内容だった。

「どうした、凪。ママは待っててねって書いてるじゃないか。大丈夫、また一緒に暮らせるぞ」

しかし、凪は大きく首を横に振った。

「ママは男の人と一緒にいたいんだ! 僕がいたら邪魔だって思ってる! もう二度と会えなくても構わないって、そう思ってる!」

その時、おじいちゃんは小学校に入学前に起きたことを思い出した。
凪は手紙から満帆さんの思いを読み取り、その時は切なくて泣いていたことを――。