「お母さんが、僕に会いたくて寂しくて寂しくて死にそうって思ってる」

そう言って、凪は大ぴらに泣きだした。

おじいちゃんは驚いた。手紙の内容は散々凪に読み聞かせた通りだった。
寂しいという言葉はどこにも書いていなかった。

「この手紙、お母さんは夜中に泣きながら書いたんだ」

そして、仕事が思ったよりハードで、心身共に疲労している母の様子を訴え、「お母さんもここで一緒に住んだらダメなの?」と珍しく駄々をこねた。

それでも、おじいちゃんもおばあちゃんもそれほど気に留めなかった。
久々に母親の空気を感じて、幼い凪が駄々をこねてもそれはしょうがないことだと思ったのだ。

異変に気づいたのは翌朝だった。
起きてきた凪はいつも通りおばあちゃんに朝の挨拶をした後、おじいちゃんを見て怯えた顔をした。

「凪、おはよう」

挨拶したおじいちゃんに、凪はぺこりと頭を下げただけだった。

朝食の後、台所で後片付けをするおばあちゃんに凪がこっそりたずねているのが聞こえてきた。

「おばあちゃん、あの男の人は誰? おばあちゃんの知り合いの人?」

その言葉に、おばあちゃんもおじいちゃんもギョッとした。

あわてておじいちゃんは凪に話しかけたり、今まで一緒にしてきた農作業のことや、一緒に出かけた川釣りの思い出など話しかけた。

しかし、凪は覚えていなかった。
というより、おじいちゃんの存在そのものをなにも覚えていなかったのだ――。