「これって」

思わず責める口調になった。

おじいちゃんはその手紙をじっと見つめてうなずいた。

「そうだ、これは凪の母親から凪に宛てた手紙だよ」

「嘘……」

わたしは箱の中に入っている手紙の差出人をすべて見た。
それは全部同じ名前、凪のお母さんからだった。

わたしはお父さんをにらみつけた。

「どうして凪に届けないの?
凪はお母さんからの連絡をずっと待ってるの、お父さんだって知ってるでしょう?」

お父さんと顔を合わせるたびに『僕のお母さんから手紙来てない?』とたずねていた凪に、『いやー、来てなかったなあ』なんていかにも残念そうに言っていたのは、全部嘘だったっていうこと?

「わたしが頼んだんだよ」

おじいちゃんが悲しげに言った。

「わたしがくるみちゃんのお父さんに、凪への手紙をすべて郵便局で留めておくようにお願いしたんだ」

思いもかけない告白に、わたしはカッとなった。

「……どうして? だって、おじいちゃんわかってるはずでしょう?凪がどれだけお母さんからの連絡を待っているか、おじいちゃんが一番よく知ってるよね?」

おじいちゃんの顔が苦しげに歪んだ。それでも、わたしは感情を抑えることができなかった。

「それなのに、どうしてこんなこと! ひどいよ、おじいちゃん、ひどすぎるよ!」

最後のほう、わたしは泣き声だった。数時間前、お母さんとの日々を思い出して涙を浮かべた凪のことを思い出していた。

あんなにお母さんを恋しがってる凪。その凪の気持ちを一番わかっているはずで、凪のお母さんのお父さんであるおじいちゃんが、親子のつながりを邪魔するようなことをしていたなんて……。

頭の中は『どうして?』という言葉だけがぐるぐると回っていた。

「こうしないわけにはいかなかったんだ」

おじいちゃんがわたしをまっすぐに見て言った。

「理由があるんだ。そのことをくるみちゃんに知っておいてほしいんだよ」

おじいちゃんの目はあまりに悲しげで、苦しげで、わたしは胸を突かれた。

そうだよね、おじいちゃんが大切な凪に理由もなくこんなことをするわけがない。

きっとおじいちゃんなりに悩んだ上で出した結論なのだと気づいた。

「聞かせて、おじいちゃん。なにがあったの?」

おじいちゃんは小さくうなずいた。そして深く息を吐くと、ゆっくりゆっくり話しだした。