夜、九時半を過ぎた頃、わたしたちは郵便局に着いた。

郵便局の奥には、来客用の応接室がある。
わたしとおじいちゃんはそこに通され、年代物のソファに向かい合って座った。

わたしの家に来た時は、なにかに怒っているように見えたおじいちゃんだったけれど、ソフアに深く座り目を閉じている様子には疲労が色濃くにじんでいた。

じっと見ているわたしの視線に気づいたのか、おじいちゃんが目を開けた。

「くるみちゃん、さっきは悪かった。驚かせたね」

わたしは「大丈夫」と首を横に振った。

手紙の思いを読み取ってからの一連の出来事に、凪にとってなにか大変なことがあったんだと思った。そうじゃなかったら、いつもどんと構えているおじいちゃんがあんなふうにわたしを問いただしたりするわけがない。

「お待たせして、申し訳ない」

その時、お父さんが小さな金庫のような箱を持って現れた。

「四宮さん、これです」

その小さな箱を見るおじいちゃんの目に、また緊張が走った。

お父さんがそっと蓋を開けると、そこには数通の手紙が入っていた。

「最後に届いたのは、五年前ですね」

「そうか、それからは一通も来てないのか」

「はい、記録ではそれが最後になります」

ふたりのやりとりを聴きながら、箱の中の手紙をのぞき込むと、その宛先にはすべて、【四宮凪様】と書かれていた。

「凪宛の手紙?」

たずねると、おじいちゃんがうなずいた。

「誰から?」

おじいちゃんは黙っていた。

お父さんを見ると、気まずそうに目をそらした。

その様子にわたしはハッと思い当たり、手紙を一通手に取って、差出人を見た。
そこには【四宮満帆】と書かれている。