ところが、町を出て十年後、満帆さんは突然戻ってきた。六歳の凪を連れて。

東京で結婚し、凪を産んだだ満帆さんだったけれど、その結婚生活は早いうちに破綻した。
離婚した途端、母子は生活に困窮し、それまでなんの連絡もよこさなかった親を頼って帰って来たのだった。

わたしが凪に初めて出会ったのは、小学校の入学式だった。
その時、凪はお母さんに手をひかれていた。
凪のお母さんはやっぱりここら辺のお母さんたちとは少し雰囲気が違っていて、周りから浮き立って見えた。

わたしのお母さんも、他のお母さんたちも入学式とはいえ、三センチくらいのパンプスを履いていたけれど、凪のお母さんは十センチはあろうかというピンヒールだった。
凪のお母さんが校庭を歩いた後にはポツポツとヒールの跡が穴になって残っていたことをよく覚えている。

そして、その日の夜にはもう、東京に帰っていったらしいということを、わたしは大人たちの噂ばなしで聞いた。

小学校は一学年一クラスしかなくて、わたしと凪は六年間同じクラスだった。
帰り道の方向が同じで、二十分ほどの道のりをいつも一緒に帰った。

活発で年の離れた兄がいるわたしは、生意気な子供だった。
同じ年の友達がみんな幼く見えて正直バカにしていた。

特に、クラスのガキ大将的な存在の男子とは折り合いが悪くて、納得いかないことがあるとくってかかり、幼い正論を振りかざしてはしょっちゅうケンカをしていた。