「ああ、でも」

凪が甘い声で言った。

「お母さんは、よく僕に愛してるよって言ってた」

そう言う凪の顔は、いつもの通り柔らかい微笑みを見せていた。

「じいちゃんのところに来る前は、まだお母さん同じの布団で寝てたんだ。一緒の布団にもぐりこむとさ、お母さんがぎゅーってもう痛いくらい抱きしめてきて、『凪ー、愛してるよー、もう食べちゃいたいくらい』って」

「食べちゃいたい?」

「そうそう。本当に、ガブガブって噛み付かれたこともあったなあ」

まだ五歳くらいの可愛い凪を、噛みつきたいくらい可愛いと思うお母さんの気持ちはなんとなく理解できた。
それが愛するってことなのかな。母性ならわたしにも理解できるのかな?

「一緒に寝てて、明け方に目がさめるとさ、お母さんの首筋に痣があるのが見えるんだ」

「痣?」

「そう。耳とうなじの間のあたりにさ、なんか星型の痣があって」

お母さんの思い出を語る凪の声は、なんだか憎たらしいほど甘く響いた。

「それを見るとなんだかうれしくて。うちのお母さんは体に星を持ってるって、なんだか誇らしい気持ちがして」


思わず笑ってしまった。
凪も笑う。


幼かった凪。
お母さんの痣が星型と言うだけで、嬉しかった凪。