「……その気持ちも手紙から読めたの?」

「読めたって言うか……、全部流れてきたんだ。あの手紙に込められたものすべてが、僕の中に、全部」

それは決して簡単には信じられることではなかったけれど、でも、今日起きたことをすべて見てきたわたしには、頷くしかできない説得力があった。

「それに……、あの人、一度ゆきさんのところに帰ろうとしたことがあったんだよね、一度」

「え?」

「まだゆきさんが再婚する前じゃないかな。まだゆきさんが残された畑を守っていた時に、一度戻ったんだ」

わたしは驚いた。なのに、どうして?

「その時に畑に坂下さんがいて、ゆきさんと作業をしていた。ゆきさんが坂下さんに向ける笑顔が輝いて見えて、あの人はもうあそこには自分の場所はないと思ったんだ」

「そんな……、でもその時はまだ夫婦だったわけだし」

「自分がまたゆきさんの目の前に現れることで、ゆきさんが掴みかけてる幸せを壊したくなかったんだよ」

わたしは黙り込んだ。

「それに自分に自信もなかったんだよね、だからまたいなくなることを選んだんだ」

その言葉に、わたしはなんだか頭がこんがらがってきた。

ゆきさんを悲しませたくない、ゆきさんの幸せを壊したくない。
そんなにゆきさんのことを考えていたのなら、どうして手紙なんて送ってきたんだろう。

手紙を送ったら、多かれ少なかれゆきさんの心にさざ波が立つのは簡単に想像できるはずだ。

「なんか矛盾だらけだね。よくわかんないや」