凪……、本当にそんなことができたの?

昔からその能力があったの?


いつ気がついたの?
怖くないの?
これからどうする?


聞きたいことはたくさんあったけれど、でも切り出せなくて、わたしは言葉を探していた。

「凪」

呼びかけてみたら、いつものように凪はゆっくりとこっちを見た。
わたしの声でどこか遠くに行っていた意識が戻ってきたかのようだった。

「ん? なに?」

「凪、さっき嘘ついたね」

なんだかちょっとこの不思議な空気を壊したくて、わざとそんな風に茶化してみた。

「嘘?」

「そう、ゆきさんに。成田に旅立つ寸前でって」

「ああ」

凪は小さく頷いた。

「あの人が……、誠さんが自分がもう長くはないってことをゆきさんに知られたくないって思ってるの知ってたからね」

「そうなの?」

「そうだよ。だから、仕事で長く日本を離れるなんて嘘を書いたんだ」

わたしは病院のベッドで、十五年以上会っていない奥さんに手紙を書く男の人のことを思い描いた。

ひとり飛び出してきて、頼れる人は誰もいない。置いてきた奥さんのことを未だ思っている。
そして、自分はひとりぼっちのまま、死がそこまで来ていることに気づいている……。

そんなのさみしくないだろうか。さみしいを通り越して、怖いんじゃないだろうか。

「それって強がりだったんじゃないのかなあ。最後に一度でいいから、ゆきさんに会いたいから、手紙書いたんじゃないかな」

思わず呟くと、凪がにっこりと笑った。

「そりゃ、会いたいって気持ちもあるだろうね」

「だったらゆきさんに本当のことを教えてあげたほうがよくない?」

「うーん」

凪はそう言うと、

「でもあの人は、死んでいく自分を見せたくないとも思ってたんだ。死に直面している自分のことを知って、ゆきさんが悲しんだり、悔やんだりするのは絶対に避けたかったんだよ」