読み終えると、凪は丁寧にその手紙を畳み、封筒に戻し、横になっている田ノ上さんの胸元においた。
そして、わたしに手を差し出した。わたしはゆきさんから預かったきた紙袋を渡す。

凪はミニトマトをひとつ取り出した。
丸々とはち切れんばかりに実った真っ赤な、みずみずしいミニトマト。
凪はそれをぼんやりと開かれた田ノ上さんの手のひらにそっと置いた。

「このミニトマト、甘くてすごくおいしいです。子供たちからも人気があって、直売所に出すとすぐ売り切れちゃうんですよ」

凪がそういうと、また田ノ上さんの頬がひくひくと動いた。
そして、その手がミニトマトを味わうかのように、そっと閉じられた。

「!」

わたしは驚いた。
意識がなくて、もうなにもわからなくなっているかのように見えるこのひとに、凪の言葉は届いたんだろうか。
それとも……、ゆきさんの思いが届いたんだろうか。

凪の両手がそっと田ノ上さんの手を包んだ。
なにか思いを伝えるかのように、頭を垂れて凪はしばらくその姿勢のままでいた。

「凪……」

わたしは思わず声をあげた。

田ノ上さんの閉じられた目から、涙がひとつこぼれ落ちていた。