「二人とも、手紙のこと教えてくれてありがとうね」
向かい側に座ったゆきさんは、そう言って深々と頭を下げた。
「あの……、大丈夫でしたか」
「え?」
「なんか泣いてたみたいだったから。辛い思いさせてしまったら、申し訳なかったなと思って」
思わずそう尋ねたわたしに、ゆきさんは照れたように笑った。
「なんか、字がね、当たり前かもしれないんだけど、昔と全然変わってなくて。それ見た瞬間から、泣けてきちゃって」
「……そうですか」
「内容はね、勝手なの。相変わらずすごく勝手なことを言ってるだけなの。……でも、読んでよかった」
その言葉にわたしは心底ホッとした。
それは凪も同じだったようだ。
途端に体の力が抜け、椅子の背もたれに体を預けた。
そんなわたしたちを見て、ゆきさんは申し訳なさそうな顔をした。
「気にしてくれてたのね……」
「いやー、なんか余計なお節介だったらどうしようって思って」
するとゆきさんはふっと微笑んだ。
「わたしの昔のことは知ってる?」
「あ……、ちょっとだけ聞きました」
「十六年前に農業がやりたくて、夫婦で移住して来たの。それまでは普通にサラリーマンしてたんだけど、いろいろなことがあって体調を崩してね。もともとの彼の夢だった農業をやろうって、意気込んでこの町に来たの」
学生時代、夏休みには農家でアルバイトをしたことがあったし、友人の畑を手伝ったこともあった。
もちろんそんなに簡単なことではないとわかっていたし、うまくいくまで何年でも頑張る気でいたのだ。
一年目はうまくいかなかった。
そのときは、最初からうまくいくわけないと二人で励ましあって、乗り越えた。
しかし、順調に作物が実をつけているように見えた二年目の夏、大きな台風がこの町を襲った。
畑は壊滅的な被害を受け、二人の畑もまた例外ではなかった。
「あともう少しっていうところでめちゃくちゃになってしまって、ショックだったのよね。元々精神的に繊細な所のある人だったから、心が折れてしまって……」
それ以来、ゆきさんがどんなに励ましても、旦那さんは畑にでなくなってしまったのだった。