「……そこまでちゃんと考えたことなかった」

「なによもう! ほんとに適当なんだから」

「でもこっちに連れて帰ってきたとしても、おじいちゃんとお母さん、うまくやれるかなあ。色々大変そうだなあ」

そう言いながらも、3人で暮らすという思いつきが嬉しいのか、凪はニコニコしていた。

そんな凪の横顔を見ているだけで、わたしの心は不安でいっぱいになった。

凪にどこにも行って欲しくない。


もし、凪がこの町の暮らしに不満を持っていて、東京に憧れがあってどこかに行きたいというのなら、わたしはこれほど不安にならないだろう。

そんな理由なら、わたしがどんな手段を使ってでも、阻止してやるっていう自信があった。
それに、いざとなったらわたしも一緒に出ていってもいい。凪と一緒に入られたら、わたしはどこにいたって笑顔で生きていける気がする。

でも、凪はおじいちゃんとの生活や、学校の合間に行う農作業や、わたしとの通学時間や、季節ごとに変化する自然や……、そうしたこの町の全てを気に入っているのに、それでもなお、もっともっと心から求め、焦がれているのがお母さんなんだ。
きっとお母さんが現れたら、わたしのことなんてほったらかして、お母さんの言うままに東京に行ってしまうんだろう。

なんだか戦う前から、すでに負けている感がある。
相手がお母さんなんだから、しょうがないんだけど……。


ねえ凪、どこにも行かないで。

ずっとここで一緒にいようよ。


わたしは隣を歩きながら、バカみたいに必死になってそんなことを強く念じていたのだった。