帰り道、わたしたちはとぼとぼと自転車を押して歩いた。

凪が落ち込んでいるのがわかる。
どう声をかけていいのかわからなかったけれど、小さいため息をつく凪をどうにか励ましてあげたかった。

「手紙、読まないかなあ……」

凪が呟いた。

「あの感じだと、難しいかもね。『なんで今ごろ?』って言ってたしね、ゆきさんにとってはつらい思い出の相手なのかも」

「つらい思い出……」

「だって農業頑張ろうって一緒に夢見て移住してきたのに、ひとりで勝手にいなくなっちゃったんだもん、許せなくない?」

凪は「うーん」と唸った。

「だったら余計決着つけたくないかな。なんでいなくなったんだろうとか、自分のことをどう思ってたんだろうって」

「でも、もう今さらって感じしないかな」

「今さらってことないよ」

「そうかなあ」

「手紙を書いた元旦那さんは、ずっとゆきさんのことを考えてた……。それがわかるだけでも、うれしくないかな」

凪はめずらしくムキになっていた。

正直、わたしはゆきさんにとって余計なことをしたんじゃないかと不安だった。
だから一方的に元旦那さんの肩を持って、ムキになる凪に、苛立ってしまう。

「だって、ゆきさんはもう新しい旦那さんも、子供もいるのに。ずっとほったらかして、今さら君のことをずっと考えてたなんて言われても、勝手なこと言わないでよって思うだけなんじゃないかな?」

つい強い口調になった。凪はわたしの言葉に反論せず、黙り込んだ。
わたしも黙り込み、しばらく沈黙の中、わたしたちは歩き続けた。