みんな黙って凪の言葉を聞いていた。
だって、なんて答えていいかわからない。手紙に触れたら、手紙を書いた人のことが見えただなんて。

凪ってばいったいどうしちゃったんだろう。倒れている間に、変な夢でも見た?

すると、突然凪がお父さんに向かって、訴えた。

「おじさん、この手紙、もう送り返す? この人、最後の望みをつなぐような気持ちでこの手紙を書いたんだよ。帰ってきたら、絶望しちゃうと思うんだ」

「凪くん……」

「僕にこの宛名の人のこと、探させてくれないかな。なんだか見覚えがある人なんだ」

でもお父さんは首を横に振った。

「それはできないよ。手紙を届けるのは我々の仕事だ。手紙ってのは個人情報だし、宛先人を探すのに子供を巻き込むなんてことはしてはいけないことなんだ」

その言葉に、凪は唇を噛んだ。

「……じゃあ、ここらへんで東京から移住してきて、農業をやろうとした人のことは知らない?」
「東京から?」

「そう、この人、随分前に農業をやろうと思って移住してきたのに、うまくいかなくなって、逃げ出したんだ。奥さんを残して……」

凪の言葉に職員の人たちが思案顔になった。

「そういう人って、珍しくないのよね」

「そう、意外といるのよ。農業に夢を見て来るんだけど、現実が想像より厳しくて、やめちゃう人が」

しかし、その時だった。