「あの手紙を書いた人、今病院にいる」

「え?」

「多分、もう長くないんだね。やせ細って、顔色もすごく悪い」

話し出すと、止まらなくなった。水の貯まったバケツの底に穴が空いたみたいだった。一気に言葉が溢れ出してくる。

「あの手紙を書きながら、何度も泣いてる。すごい後悔してるんだね。書きながら思い出してる女の人がいるんだ。その人のことが今でも好きなんだね。もう一度会いたい……けど、会えない。全部自分のせいなんだ。全部わかってるけど、でもやっぱり……最後にもう一度だけって……」

「凪? なに? どうしたの、もうやめて」

何かに取り憑かれたみたいに、言葉を口にする凪を見ていたら怖くなって、わたしは凪の腕をつかんだ。凪がはっとして我に返った。

わたしやお父さんや他の職員の人たちも怯えた目で自分を見ていることに気づいたようだった。

凪が困ったように目を伏せた。

「凪? 大丈夫?」

声をかけると、凪は小さくうなずいた。

「手紙に触ったら、見えたんだ……」

「見えたって……なにが?」

「この手紙を書いた人のこと。書いてる時の様子とか、その時の感情とか思いとか、考えていること全部……」