わたしは手を出した。お父さんは「本当は関係者以外には渡しちゃいけなないんだが」と言いながら、見せてくれた。少しでも手がかりが欲しかったんだろう。

『田ノ上幸枝様』と書かれた名前はインクが滲んでいて、少し震えているように見える。

「『たのうえゆきえ』……。違うかな、『さちえ……?』」

そう呟きながら見ていると、振り込みを終えた凪が後ろから覗き込んできた。

「なに? 手紙?」

「そう、宛先人不明なんだって。凪、この名前聞いたことある?」

「差出人は? 田ノ上誠……家族かな」

差出人を見ようと、凪が手紙にふれた。途端にピクッとして、手を引っ込めた。

まるで静電気でも発生した時みたいに。

「どうしたの?」

凪はわたしの問いかけに答えもせず、真剣な顔で手紙を見つめていた。

そこまで真剣にならなくても……と思いながら、わたしは言った。

「なんかすごく分厚いし、大切な手紙かもしれないから届けてあげたいけど、見当もつかないもんねえ……」

すると、凪が小さな声で言った。

「わかるかも」

「え?」

「ちょっと貸してもらっていいかな」

凪はその手紙を受け取ると、おもむろに右手の手のひらを手紙にぎゅっと押し当てた。

わたしは思わず笑ってしまった。

「凪、なに? ハンドパワーのつもり?」

そのときだった、突然凪の体から力が抜け、膝から崩れ落ちた。