「凪……」


ポロポロと涙を流すわたしを、凪は申し訳なさそうに見た。

「ごめん。約束したのに、覚えてなくて。本当にごめん」

わたしは何度も何度も首を横に振った。

手紙に込められた思いを読み取ることと引き換えに、大切な記憶を失う。
そんな理不尽な能力を手にして、自分の力ではどうにも記憶を保てないはずの凪が、わたしとの最後の約束を思い出してくれた。こんな奇跡があるだろうか。

わたしは涙を手の甲でぬぐい、凪に笑いかけた。
凪のおかげでこんなにも感激し、幸せな思いで満たされていることを伝えたかった。

心配そうな顔でわたしを見ていた凪が少しホッとした顔になった。

「それで、僕はやっぱりこっちでおじいちゃんと暮らして、互いに行き来しようって話になったんだ。明日から学校だから、戻ってきた」

「そっか」

わたしはうれしくてうれしくて、飛び跳ねて回りたいほどだった。

「凪、お帰り。戻ってきてくれてうれしいよ」

ストレートに喜びを伝えたら、凪は照れたように笑った。

「ただいま……。よかったよ、戻ってきて。なんか生き返った気がする」

そう言って、凪は夕日を見つめた。

それはわたしも思っていたことだ。

凪がわたしを忘れていても、ここに戻ってきてくれたことだけで、わたしは生き返った気がする。

凪の笑顔、凪の気配、凪の息遣い。

それを感じるだけで、楽に息ができるようになったようだ。