「凪……」

あの日、凪はわたしと別れた後に、この写真を待ち受けにしてくれてたんだ。
記憶をなくす前、凪もこの写真を大切だと思ってくれてたのかな。

そう思うと、胸がいっぱいになった。泣きそうなのをこらえるために、わたしはわざとふくれた顔で言った。

「そうだよ、凪ってば、またふたりでどこかに行こうねって約束したのに、すっかり忘れちゃってさ。ほんとひどいんだから」

すると凪が「え?」とキョトンとした。

その様子に、わたしも驚いてたずねる。

「約束を思い出してくれたんじゃないの?」

「……そんな約束、したのかな?」

「したじゃん! またふたりでどこかに行こうねって」

わたしが思わず大きな声で訴えると、凪は困り顔になった。

「僕がしたのは、そういう約束じゃなくて……」

凪はなにかを確認するかのように一度考え込むと、わたしをまっすぐ見つめ再び口を開いた。

「絶対に忘れないって、約束したよね」

「え……!」

わたしは目を見開いて、凪を見つめた。

凪も真剣な顔でわたしを見る。

「声が聞こえるんだ。『絶対に忘れないでね』って声が、このオレンジ色の光の中にいると聞こえてくる」

その瞬間、わたしはもうこらえることができなかった。
涙があふれて、なにも考えられない。顔を手でおおった。

やっぱりちゃんと伝わっていた。全部わかってくれていた。
わたしの心の奥底に秘めた思いを、凪もまた心で受け取っていてくれたんだ。