「ごめん、つい……」

「いや、いいんだけど、なにから答えていいか」

凪は少し考えて、口を開いた。

「単純に言うと、ホームシックになっちゃって」

「え?」

「東京の生活も悪くないんだけど、やっぱりここの生活が好きなんだよね。なんだかずっとここが恋しくて、帰りたくて」

その言葉に思わず頬がゆるむ。

そうだよね、凪はここでのおじいちゃんとの暮らしが心から好きだった。
一度はおじいちゃんの畑を継ぎたいって言ってたくらいだもん。

「東京の僕の部屋が西向きでさ」

唐突な凪の言葉に、わたしは「え?」と聞き返す。

「今住んでるマンションの僕の部屋に、西向きの大きな窓があるんだ」

「う、うん」

「だから夕方は西日がすごくてね」

凪の話がどうなっていくのか見当もつかなくて、わたしはただうなずいた。

「いつも部屋がオレンジ色に染まるんだ。その中にいると、いつもこの場所のことが思い浮かぶんだ」

わたしはうれしくなって、勢い込んで言った。

「やっぱりここは凪にとっても大事な場所なんだね!」

凪は小さく微笑み、うなずいた。

「東京の部屋は暑くってさ、こことは全然違うんだけど、光の感じだけが似てるんだ。そしたら、思い出したことがあってね」

「なに?」

「僕はここで大事な約束をしたんだ、確か」

その言葉にハッとした。

「多分、君としたんだよね」

凪がまっすぐわたしを見つめてきた。

それってもしかして、最初で最後のデートの日にした約束のこと?

わたしは胸がいっぱいになって、何度もうなずいた。

「……どうしてわたしだって思ったの?」

すると凪は、自分のスマホを差し出した。

画面を見ると、ここで撮ったわたしと凪の写真が待ち受けになっていた。
オレンジ色の光に包まれて、わたしたちが自然に寄り添っている。