明日から二学期が始まる日。
わたしはひとりで、海に落ちていく夕日をみることができる丘に向かった。

凪がいなくなって以来、あの場所は思い出すことすら苦しくて、おじいちゃんの家に行ったとしても立ち寄ることはなかった。

だけど、お兄ちゃん一家がやってきたここ一週間で、わたしの心に少し変化があった。
凪と撮った写真を改めて見返したこともあり、凪の優しさに包まれてあんなに幸せだった頃のことを忘れたくないと言う気持ちが生まれていたのだ。

それに、あの丘は、わたしにとって大切な場所だ。無理やり忘れようとしたって、できるわけがない。

ひとりで、ゆるやかな坂道を歩いていく。そして丘に近づいた時、わたしは目を疑った。

そこには、先客がいた。ひょろりとしたシルエットの、男の子。

それは間違いなく凪だった。

わたしは自分がおかしくなってしまったのかと思った。
凪を求めるあまりに白昼夢を見ているのかと、何度も目をこする。

でも、確かにそこには、凪が立っていた。

「凪……」

わたしを覚えていない彼に呼びかけるのもためらわれて、小さくつぶやいた。

すると、凪がこちらを向き、わたしを見とめると、ニコリと照れた笑顔を見せた。

その笑顔は相変わらずよそゆきな礼儀正しい笑顔だったけれど、でもこの前とはまたちょっと違う雰囲気が感じられた。

「どうして、ここに……? お母さんは? 東京は?」

矢継ぎ早に質問してしまい、凪が困り顔になった。