実は、凪がわたしのことを忘れてから、一度も見返すことができずにいた。
幸福な思い出を改めて目にして、凪がいなくなったことを思い知るのが怖かったのだ。

でも、わたしと凪のことをなにも知らない玲美さんがほめてくれたことがうれしかった。
それに、凪との思い出から逃げてばかりいてもしょうがない。

わたしは覚悟を決めて、写真のフォルダを開いた。
そして、シーパークのデートで撮った写真を順番に見ていく。

あの日、わたしは凪の心に少しでも強く自分のことを刻みつけたいと、切実な思いを抱えていたのだけれど、写真の中のわたしはどれも楽しそうだった。

凪を失う痛みをまだ知らないわたし。凪の隣で、幸せそうな笑顔を見せている。

もうこんなふうに笑うことはできないだろう。

まるで何年も前のことのように思えて、自分が一気に歳をとってしまった気がした。

最後、夕日が見える丘で撮った写真のわたしと凪は、オレンジ色の光に包まれて、一番自然な感じで写っていた。

やっぱり、いつも過ごしている場所で撮ると違うんだなあ。

そんなふうにぼんやり考えていたら、突然、途方もない喪失感に襲われて、押しつぶされそうになった。
歯をくいしばって耐えるしか他に方法がなくて、わたしはただじっとこらえる。

それでも、あの別れの日、わたしの記憶がすっぽりと抜け落ちているのに、駆け出すわたしに『くるみ!』と呼びかけてくれた凪のことを思い出すと、少しだけ心が癒された。

本当にわたしってば、今までどれくらい凪に心配させて生きてきたんだろう。

そう思うと、ジワリと心が温かくなった。そして、そんな凪はもういないのだと思うと、また苦しくなった。

ただ、もう後悔はなかった。
わたしが愛したのと同じくらい、凪もわたしを愛してくれたのだと思えたから、それで十分だった。