おじいちゃんの家にも、たびたび顔を出した。

突然ひとり暮らしになってしまって、寂しくないかと心配したけれど、おじいちゃんは今までと変わらず仕事に精を出していた。
どうしても人手が足りない時は、農協や、海と山のマルシェに頼んで、アルバイトの人に来てもらっていた。

ある日、おじいちゃんがなぜか段ボールに朝採りの野菜を詰めていた。

「どこに送るの?」

するとおじいちゃんは、言いづらそうに口を開いた。

「凪のところだ。スーパーで売ってる野菜がまずいから送ってくれって電話をよこしてきてな」

「へー……」

「真帆が忙しいから、食事の支度なんかも凪がやってるらしい。でも、なにを作ってもおいしくならないってぼやいててな」

「すごいね、凪」

『凪』と口にした途端に涙が込み上げてきた。
あわててこらえ、おじいちゃんに気づかれないように明るい声を出す。

「わたしもがんばらなきゃ」

おじいちゃんはわたしをちらりと見て言った。

「別にがんばらなくていいさ」

「どうして?」

「無理はよくない。無理にがんばると、後で苦しくなる」

おじいちゃんの言いたいことはよくわかった。
でも、今のわたしは無理をしないでいることのほうが苦しかった。

「がんばるよー! だって、お兄ちゃんたちももうすぐ引っ越してくるし、夏休みの宿題だって終わってないし。二学期になったら文化祭だってあるし、やらなきゃいけないことがたくさんあるもん」

テンション高くはしゃいでみせると、おじいちゃんは「そうか、くるみちゃんも忙しいな」と笑ってくれた。


そう。

わたしだって、凪がいなくても大丈夫。


おじいちゃんに心配をかけたくなくて、そしてなによりも自分を奮い立たせたくて、心の中で無理やり自分に言い聞かせる。

わたしはおじいちゃんの荷造りを手伝いながら、もうすぐやってくるお兄ちゃんたち家族のことを、楽しげに話してみせた。