翌日、わたしは駅に向かった。

凪の前に出る自信はなかったけれど、行かなかったらそれはそれで後悔するだろう。
とりあえず駅に行き、様子を見て、凪に挨拶するかどうか決めようと考えていた。

ところが駅に着いた途端、おじいちゃんに見つかってしまった。

目が合った瞬間、わたしはあわててそっぽを向き、立ち去ろうと思ったのに、「くるみちゃん!」と呼ぶおじいちゃんの大きな声に無視できなくなってしまった。

おじいちゃんはわたしのところに駆け寄ってきてくれた。

「くるみちゃん、来てくれたんだね」

そしてわたしが逃げ出さないように、腕をつかんだ。

「おじいちゃん、痛い……」

でも、おじいちゃんはわたしの苦情など耳も貸さず、凪を呼んだ。

「凪! こっちに来なさい」

おじいちゃんに呼ばれて、凪が近づいてきた。

わたしはありえないほど緊張していた。
凪が目の前に来るだけでこんなに張りつめた気持ちになったことなんてない。

体が固まってしまったわたしをよそに、おじいちゃんは凪に声をかけた。

「凪、くるみちゃんだ」

凪は『ああ』という顔で、わたしを見つめた。
やっぱり知らない人を見る目だった。

わたしはその視線を受け止めることができなくて、思わずうつむく。

「お前にとって、とても大切な人だ。恩人だよ」

おじいちゃんの言葉に、わたしは笑ってしまった。