病院に到着すると、受付で、凪が入院している部屋を確認した。
病室のある階でエレベーターを降りる。
早足で歩きながら病室を探していると、ある病室から聞き覚えのある声が聞こえてきた。
そっとのぞくと、手前のベッドに凪がいた。
上半身を起こし、枕にもたれている。
傍らに座る満帆さんが凪の手を握っていて、その様子をおじいちゃんが見つめていた。
凪の顔はまだ青ざめてはいたけれど、笑顔が見えてホッとした。
「凪」
小さな声で呼びかけると、三人が一斉にわたしたちの方を見た。
「くるみちゃん!」
満帆さんは飛び上がるようにしてわたしに駆け寄り、ぎゅっと抱きしめてきた。
「え?」
「くるみちゃん、ありがとう! 本当にありがとう、全部あなたのおかげよ」
その言葉と満帆さんの潤んだ瞳で、すべてを察した。
「凪、思い出したんですか……」
「昨日ね、帰ってきた凪に手紙を読んでってお願いしたの。最後のお願いだからって。そしたら、凪が封筒に手を当ててしばらくしたら突然倒れちゃって。痙攣(けいれん)っていうか、ブルブル震えて、全然意識も戻らなくて。それで救急車を呼んでね」
満帆さんはわたしの体を離すと、今度は両手でぎゅっと手を握りしめて一気にまくしたてた。
「どうなることかと思ったんだけど、今朝意識が戻ったら、わたしのこと『お母さん』って呼んでくれたの! そしてね――」
激しく興奮しながら満帆さんはずっとしゃべっていたけど、わたしは途中からその言葉は聞こえてなくなっていた。わたしが考えていたのは、ただひとつだけだ。
凪はわたしのことを忘れてしまった?
それとも覚えてる?