その日の夜、わたしは自分の部屋で幸せな一日のことを思い出していた。
暑い中、歩き回って疲れたけれど、その疲労感ですら心地いい。
すると、つないだ手のぬくもりや、抱きしめられた時に感じた安心感を反芻(はんすう)しながらまどろむわたしの耳に、遠くで救急車のサイレンの音が聞こえた気がした。
でも凪との思い出に浸っているわたしは、自分にはなんの関係もない音だと判断し、大して気にしなかった。
わたしたちふたりを引き裂く運命がもう始まっていることに気づかないまま、うとうとと夢の縁を漂っていた。
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