もしかしたら、凪はわたしのことをすっかり忘れてしまうかもしれない。
そしたら、こんなふうに過ごすことはもうないのだ。
「また、ふたりでどっかに行こう。僕、プラン考えておくよ」
そう言ってくれた凪に、わたしは返した。
「絶対、忘れないでね」
わたしの声が切実すぎて、凪が驚いた顔をした。
「どうしたの、くるみ」
「なんでもないよ。ただ、忘れないで、覚えててほしいだけ」
凪はわたしをなだめるように微笑んだ。
「忘れないよ、大丈夫。約束する」
「本当に?」
「本当に。絶対に忘れない。楽しみにしてて」
わたしの言葉と凪の言葉の意味が違っているのはわかっている。
だけど、それでもよかった。
わたしは凪が『約束する』と言ってくれたことが幸せで、その言葉を信じようと思った。
凪がそっとわたしの手を取る。その親指が、わたしの手の甲をそっと撫でた。
「くるみ……、ずっとこうしていられるといいね」
それはわたしがずっと凪に対して思っていたことだった。
ずっとこうして一緒にいられたら、と何度願ったか。
「僕らはずっとふたりでいたじゃん。これからも、大人になっても、年を取っておじいちゃんおばあちゃんになっても、こうしていられたらいいよね」
まっすぐな凪の言葉がうれしくて、でも照れくさくて、わたしは笑いだした。
「なんで笑うんだよ」
凪がむくれた顔になる。
「だって、それってまるでプロポーズみたいなんだけど。いいの? そんなこと言って」