「くるみちゃんはあの子にとって、幼なじみで親友で、兄弟のようで、時には母親のようで……唯一無二の存在だ。あの子にとってくるみちゃんの代わりはいない。くるみちゃんにとっても、そうだろう? 違うのかい?」

わたしは言葉が出なかった。代わりに胸の奥から込み上げてくるものがあふれて、涙を我慢することができなかった。

凪がわたしのことを忘れてしまったら……と思うと、怖くてたまらない。
本当はこのままでいたい。お母さんのことを忘れた凪と、未来を夢見て一緒に歩いていきたい。

でも、わたしは凪が一番大事にしているものを奪った張本人。
その罪悪感を背負ったまま、隣にいることを想像すると苦しくなるばかりだった。

「凪は記憶はなくしちゃったけど、凪の心や体がお母さんを恋しく思ってたことを覚えてる。本当は、やっとつないだ手を離したくないんだよ。ずっとずっと握りしめていたいんだよ。凪の本当の気持ちをわかってるのに、知らないふりをするなんてできないよ」

わたしは泣きながらも、おじいちゃんに訴えた。はっきり言葉にしないと、せっかくの決断を翻してしまいそうだった。

「本当にそれがいいことなのか、わたしにはわからないよ」

おじいちゃんは再びため息をつきながら言った。

「お父さん!」

満帆さんが訴えるように叫んだ。

「わたし、今までの分も凪のことを大切にするわ。あの子のためなら、なんだってやる。そうよ、今までだって凪のためにがんばってきたのよ。一緒に暮らしたら、絶対にあの子のことを幸せにしてみせる」

その言葉にお父さんがなにか言いたげにしたけれど、お母さんがその腕をつかんで止めた。