その夜、おじいちゃんと満帆さんがうちにやってきた。
満帆さんから話を聞いたおじいちゃんが、わたしと話し合いたいと言って連絡をくれたのだ。

わたしはお父さんとお母さんにも、自分の思いつきを打ち明けていた。

うちのリビングにお父さんとお母さん、おじいちゃんと満帆さんが向かい合って座り、わたしはその間にダイニングの椅子を持ってきて座った。

「満帆から聞いたよ。手紙を書けって言ったんだって?」

おじいちゃんに、わたしは頭を下げた。

「ごめんなさい……。また凪に手紙の思いを読んでもらおうと思ってます」

顔を上げておじいちゃんを見る。

おじいちゃんは怒るかと思っていた。
でも、そこに見えた表情には、わたしに対するいたわりが感じられた。

「どうして、そんなことをさせようと思った? いいじゃないか、凪はこの町で生きていく気でいる。くるみちゃんもそれがうれしかったんじゃないかい?」

やっぱりおじいちゃんにはすべて見破られていると思った。
わたしの凪への恋心も、凪がお母さんを忘れたことで東京に行かなくて済むことになってホッとしている気持ちも。

わたしはうなずいた。

「本音はそうなの。お母さんのことを忘れてくれてよかったって、そう思ったこともあったの。でもね……」

話しながら、もう泣きそうだった。

でも、泣いてはいけない。わたしは決めたのだ。

「わたし、凪がどれくらいお母さんのことを待っていたか、知ってる。多分、おじいちゃんよりわかってる。さみしい気持ちを我慢して、不安になるのをこらえて、ずっとお母さんのことを信じてた凪を知ってるの」

わたしの言葉に満帆さんがうつむいて、目を抑えた。

「それなのに、せっかく会えたのに、こんなふうに別れることになるなんてダメだよ。十年間、待ち続けてきた凪がかわいそうすぎるよ」

おじいちゃんは「そうか」と低い声で言った。