「凪、最後にひとつだけお願い」

明るく満帆さんが言った。

「なんですか」

「一回、手をつないでくれない? 昔、ここで手をつないで一緒に夕日を見たの。覚えてないだろうけど」

満帆さんは凪に手を差し出した。

しょうがなく、といった感じで、凪がおずおずと手を握る。

途端に満帆さんが歓声を上げた。

「うわー、凪の手がこんなにおっきいなんて、信じられない」

満帆さんは握った凪の手をブンブン振った。

「昔は小さくて、柔らかくて、肌なんてすべすべだったのに。こんな、いっちょ前に男の手になっちゃって」

そのうちに、満帆さんになにかが込み上げてきたようだった。凪の手を握る手にぎゅっと力がこもるのがわかる。

「じゃあ、わたしは先に帰るわ」

しばらくして、真帆さんは凪の手を名残押しそうに離した。
そしてあふれそうな涙を見られないように、どんどん歩いていく。

その背中は、儚く頼りなげに見えた。

「凪、一緒に帰ってあげれば……」

言いながら凪を見上げたわたしの動きが止まった。
満帆さんを見送る凪の目から涙がひと筋こぼれ落ちたのだ。

「凪?」

わたしが驚いて声を上げると、凪がハッと我に返った。

「あれ? 僕、なんで……」

凪は自分がなぜ涙を流しているのかわからないようで、あわててゴシゴシと涙をぬぐった。
なのに凪の目からはポロポロと涙があふれてくる。