丘に着くと、凪が気持ちよさそうに海からの風を受けていた。

「凪!」

わたしが呼ぶと、ゆっくりこちらを振り返った。

「くるみ。早かったね」

「むちゃくちゃ飛ばしたから」

「焦らなくても、いるのに」

そんなに久しぶりってわけでもない。
二日前に会ったばかりだというのに、凪の顔をちゃんと見ることができて、ホッとした。

しばらく黙って並んで、海を見ていた
。ひとりでここに来ないではいられなかった凪の気持ちを考えていた。

「なんか、家にいづらくて」

凪がポツリと言った。

「あの人が僕を見る目がしんどいんだ」

「しんどい?」

「なんか期待されてる気がして。ふとした瞬間に自分のことを思い出すんじゃないか、みたいな期待を感じる」

思わずため息が出た。

満帆さんの立場にたったら、そうなるだろう。

「昨日の夜はさ、三人で話し合い」

「どういう?」

「僕を東京に連れていきたいって」

思わず「え!?」と大きな声が出た。

「僕の記憶がなくなったとしても、母親であることには変わりはないんだから、一緒に暮らしてみないかって。それに、東京でいろいろな経験をしたら、将来に役立つんじゃないかって」

満帆さんが凪を迎えに来た気持ちは本物なんだな。本気で凪と一緒に暮らす覚悟で戻ってきたんだ、と思った。

「……凪はなんて答えたの?」