「どうにか方法はないの?」

「え?」

「あなたのせいで凪はわたしの記憶をなくしたんでしょう?」

その言葉に、おじいちゃんが満帆さんを怒鳴った。

「満帆! やめなさい」

それでも構わずに満帆さんは続けた。

「記憶を取り戻す方法はないの? ねえ? あるでしょ? わかるんでしょ? 教えてよ!」

途中から満帆さんはわたしの肩をつかみ、最後のほうは思いっきり揺さぶられていた。
恐怖と申し訳なさで頭の中がぐちゃぐちゃになってしまったわたしは、「ごめんなさい、ごめんなさい」と謝り続けることしかできなかった。

「やめてください!」

凪の大きな声が響いた。
そして、わたしの肩をぎゅっと握った満帆さんの手を引きはがし、かばうようにわたしの前に立った。

「責めるなら、僕を責めてください。くるみはなにも関係ない」

「凪……」

満帆さんはその目に涙をためて、凪を見上げた。
そこには凪への思いがあふれんばかりにあるのがわたしにもわかった。

でも、満帆さんを見下ろす凪の目には、戸惑いしかなかった。

しばらく視線を交わした後、満帆さんは目をそらした。

「……もういい」

満帆さんはそう言うと、凪に背中を向けた。その背中が小さく震えていた。

「わたしが悪いのよね。自業自得なんだって、わたしだってわかってる」

それはまるで懺(ざん)悔(げ)の言葉のようだった。

「十年もほったらかしてたんだから、恨まれてるかもしれないとは思ってた。反発されて、ひどいことを言われることを覚悟してた。でも、まさか忘れられてるなんて予想もしてなかった。そんな空っぽの表情で見られるなんて、信じられない。こんなことになるんだったら、憎まれていたほうがよっぽどましだわ」