凪はあんなにお母さんのことを待っていたのに。
その日が来ることをずっと信じていたのに。
あんな思いの通わない、ちぐはぐな再会にしてしまったのはわたしだ。
その時、家の中からドタドタと駆けてくる音が聞こえてきた。
そしてバタンとドアが開いた。
わたしたちは反射的に立ち上がった。
玄関の前に、満帆さんがいた。
悲しさと苦しさと切なさと後悔と……いろいろな思いが入り混じった顔をした満帆さんは、凪に駆け寄るように近づくと、その腕をつかんだ。
「凪、本当に忘れちゃったの?」
「あ……」
凪は驚いて言葉が出ず、口をパクパクと動かすことしかできなかった。
「お母さんがいたことすら忘れたって本当に? 存在すら覚えてないって、そんなことある? だってあなたの小学校の入学式に、わたし一緒に出たのよ! あの時、ママが一番キレイなママだねって言ってくれたじゃない」
後から来たおじいちゃんが、凪にすがりつく満帆さんと凪の間に入り、真帆さんをを引き離そうとした。
「満帆、やめなさい。凪を責めてもしょうがない。凪にはなんのことかもわからないんだから」
「なによ! せっかく自分の実家に預けたのに。自分の親のところに預けてたら、わたしのことをしょっちゅう思い出してくれるだろうって思ってたのに! こんなことになるなんて……ひどい!」
満帆さんはすごい剣幕でおじいちゃんの手を振り払うと、再び凪の手をつかんだ。
「顔を忘れちゃったとか、なにを話していいかわかんないとか、そういうことならわかるわよ。でも、存在を覚えてないってなんなのよ!」
「あ……なんか……すみません」
その他人行儀な言い方に、満帆さんは凍りついた。
凪に満帆さんの記憶がないということが、嘘でも演技でもないと実感したようだった。
すると、満帆さんは突然わたしに向き直った。