「だから、ちょうどよかったんだ。満帆を忘れることができた凪は、きっと幸せになれる」

そう言うと、おじいちゃんはわたしの肩をぽんぽんと叩いた。

「心配しなくていい。大丈夫だから、今日はもう帰りなさい」

許されたことにホッとしながらも、それでもわたしは言わずにはいられなかった。

「でも! おじいちゃん、本当にごめんなさい。約束破って……。もう絶対しないから、凪にあんなことさせないから……本当に本当にごめんなさい」

謝罪の言葉を一気に吐き出し、わたしは深々と頭を下げた。

顔を上げた時、おじいちゃんは労わるようにわたしを見て、うなずいてくれた。

わたしはもう一度大きく頭を下げると、踵を返して、作業場を出ていった。

凪の家からうちまでのゆるやかな坂道を、自転車で走りながら、わたしは少しだけ胸のつかえが取れた気がして安堵していた。
でも、やっぱり罪悪感は消えなかった。


本当に大丈夫なのだろうか?

凪はお母さんのことを忘れてしまって、それでいいの?

おじいちゃんの言う通り、凪はこれで本当に幸せになれるの?


わたしは完全にぬぐい去ることのできない不安から逃れようと、ペダルを踏む足に力を込めた。