たったひとりの娘なのに信じられない、認められないのは、おじいちゃんにとってやりきれないに違いない。

「満帆が若い時は、しょうがないと思ってた。若さとはそういうものだ。傲慢で鼻持ちならない」

そう言うと、おじいちゃんは小さなため息をついた。

「なのに、あいつは母親になっても変わることができなかった。確かに若い母親だったかもしれない。でも、子供を産んだ時点で、大人になる覚悟を決めなきゃならん。それがあいつには全然ない」

満帆さんに対するおじいちゃんの気持ちを、ここまで直接聞くのは初めてだった。

「わたしも死んだ妻も、凪に寂しい思いをさせないよう、幸せな子供時代になるように大切に大切に育ててきた。それでも、凪の心はいつも母親を求めている。あんなにダメな母親でも、凪にとっては無条件に特別な存在なんだと思うと、あんなふうにしか満帆を育てられなかったことで凪に申し訳ないような気がしていたくらいだ」

「そんな……」

おじいちゃんが真帆さんのことで、そこまで凪に負い目を持っていたなんて、思いもしなかった。

「満帆からの凪の手紙は郵便局に留めてもらっているけれど、ここ五年は手紙自体が来ていないんだ。それがなにを意味すると思う? 凪のことを大切にしていると言えるかい? わたしにはとても思えない。あいつは、凪を捨てたんだ」

そんなことない、きっとなにか事情があるはず。

そう言いたかったけれど、ずっと凪のこと、そして満帆さんのことを考え続けてきたおじいちゃんには、上っ面の言葉にしか聞こえないだろう。

おじいちゃんだってきっと、ずっと思おうとしてたんだと思う。
満帆さんから連絡がないのは、凪になんの便りもないのは、なにか事情があったからだって。
でも、もうそう思うことすらできないほど、おじいちゃんは満帆さんのことをあきらめたんだ。

うなだれるわたしに、おじいちゃんは続けた。

「このままだと凪は、満帆のせいでとてつもなく傷つくことになるんじゃないかって怖くなる時があった。あんなにまっすぐ母親のことを思っている凪に、満帆が母親としてちゃんと応えられるとは思えない。新しい家庭を作って、凪を邪魔者扱いしたりしたらどうなる? そんなことを考えると、正直ぞっとするよ」

「おじいちゃん……」

自分の娘と孫の間で、おじいちゃんはもうずっといろんな可能性を考えていたんだろう。
わたしなんかよりずっと切実に、シビアに。


その重さに、言葉が見つからない。