買ってきたものを持って凪の家に戻ると、わたしは帰ると告げて玄関を出た。だけどこっそり、作業場にいるおじいちゃんの元へ向かう。

「おじいちゃん」

「くるみちゃん、どうした? 凪は一緒じゃないのかい?」

わたしがひとりで現れたことにおじいちゃんは驚いたようだった。

「……おじいちゃんに話があって」

おじいちゃんはなにかを察したのか、真剣な顔になった。

凪の変化におじいちゃんが気づいているのかはわからない。
わたしが黙っていれば、なにも知らないまま過ごしていくのかもしれない。

でも、それはできなかった。凪の一番大切な記憶を奪ってしまったことを伝えなくてはいけないと思った。

それは、おじいちゃんの娘の記憶を凪から奪ったことでもある。
そのことがこれからのふたりの生活にどんな影響を与えるのか、想像もつかない。でも、だからこそ、逃げるわけにはいかなかった。

「実は……また凪は手紙の思いを読んでしまったの……」

途端におじいちゃんの顔色が変わった。厳しい声でたずねられた。

「それはいつのことだい?」

「おじいちゃんとケンカして、凪が家を飛び出した夜があったでしょう? その時、わたしもいろいろあって、ファミレスに行ったら凪に偶然会って……」

おじいちゃんは『ああ』という顔をした。

「翔くんの嫁さんから来た手紙のことだね」

わたしはうなずくと、事の経緯を説明した。

もう一度、わたしのお兄ちゃんの居場所を見つけるために、手紙の思いを読んでもらったこと。
そのおかげで、お兄ちゃんとその家族に会えたこと。
そして、その結果、凪はお母さんのことを忘れてしまったこと。


おじいちゃんは黙ってわたしの話を聞いていた。