わたしが小さい声でぼやいても、お母さんは全然気にならない様子だった。
ここのところ気だるげだった後ろ姿に、パワーがあふれていた。

その姿を見て、とうとう長くトンネルの中にいたようなうちの家族の前に、明るい未来が開けていくかのような気がした――。


わたしは向かい側に座るお兄ちゃん、華ちゃん、玲美さんを見つめた。

お兄ちゃんがいなくなって、ずっと置き去りにされた寂しさを感じていたけれど、一気に家族が増えた。このチャンスを逃していたら、どうなっていただろう。
もちろん、取り戻す可能性もあったけれど、永遠に失っていた可能性だってある。

凪があの時『玲美さんの手紙の思いを読む』と強く言ってくれなかったら、今感じている幸福を手にすることはできなかっただろう。

凪のおかげで、わたしたちはお兄ちゃんを取り戻すことができたのだ。

それからわたしたちは、焼肉を食べながら今後について話し合った。

「お腹が大きくなってからじゃ、大変よ」とお母さんが主張して、お兄ちゃん一家はできるだけ早くすべてを整理して、町に帰ってくることになった。

お兄ちゃん家族が戻ってくることで、たくさんの楽しみが生まれた。
華ちゃんの成長を見守り、双子の赤ちゃんと格闘する日々が来るんだと思うと、なんだかワクワクする。

今まで家にいるとどうしても重苦しい気持ちになっていたのが、嘘のようだ。

「慣れるまでは同居してもいいわよね」

「いいアパートがないか、知り合いに聞いておくよ」

お父さんもお母さんも、見ていて笑えるほど張り切っていた。

お母さんにいたっては、めまいがすると青ざめた顔で寝込んでいた人とは思えないほどだった。

凪がこの再会劇の立役者だということを知らないお兄ちゃんは、焼けた肉を凪の皿にとってあげながら、不意に聞いた。

「凪は、高校を卒業したらどうするの?」

「え?」

凪が驚いた顔をした。

「だって、考えないの? 東京に出てみたいとかさ」

お兄ちゃんの言葉にドキドキした。

あまり余計なことを言って、凪を刺激しないでほしい。

「いやー、全然」

あっさりと凪が答えて、わたしは戸惑った。