すると、ふたりの会話に割り込むようにお母さんが怒鳴った。

「ちょっと、そんなこと今どうでもいいわよ!」

その剣幕に、お父さんもわたしもビクッとした。

「くるみ、本当なの? 翔のお嫁さんが双子を妊娠って」

「凪が思いを読んで、そう言ってるの。年子で双子だから、玲美さんはものすごく不安なんだって。産むのをあきらめたほうがいいんじゃないかと悩んでるって……」

わたしの言葉を聞いた瞬間、お母さんがお父さんの読んでいる新聞をひったくった。

「お父さん」

お母さんの目は完全に据わっていた。その全身から怒りのオーラが発されている。

「わたし、お父さんがなんと言おうと、翔とお嫁さんを探します。それが気にくわないなら、離婚してもらってけっこうですから」

「お母さん!」

今までにないお母さんの覚悟に、わたしはあわてふためいた。

お父さんも唖(あ)然(ぜん)とした顔をしている。

「どうせ翔は大した仕事してないんでしょう。それなのに、無駄なプライドがあって、うちに帰ってこれないだけでしょう。そんな息子に育てたのは、わたしの責任です。そのせいで、お嫁さんが今どれほど心細い思いをしているか……」

お母さんは涙ぐんでいた。玲美さんのことも心配しているのだろうけど、今まで我慢してきた思いがとうとう臨界点を超えて、あふれてきてしまったんだなという感じだった。

「わたしは母親として、もうほうっておくことはできませんから。すぐにでも、探し出して、会いに行きますから!」

そう言うと、すごい勢いでネギを刻み始めた。

わたしはその剣幕にあっけにとられて動けないでいた。

お父さんは腕を組んでじっと考えていた。そして、冷静な声で言った。

「くるみ。……凪くんに今日の午後、東京に行けるか聞きなさい」

「え?」

わたしが驚いたのと同時に、お母さんの手が止まった。

「凪くんがいたら、翔の居場所の手がかりがつかめるかもしれない。お父さんも仕事は半休とるから」

「お父さん!」

お母さんの声が潤んでいた。

「そういうことなら、今日はお母さん、パート休むわ! 準備しなきゃ」

「……いつも、パートだからってそんな簡単に休めないって言ってるくせに」