「それに、また実家に帰れるのもあいつのおかげだし」

「なによ、帰りたかったの?」

わたしがからかうように言うと、お兄ちゃんは参ったなという顔をした。

「そりゃ帰りたかったよ。でも、そんなこと口に出すこともできなくて……ていうか、正反対の言葉しか言えなかった。『絶対、帰らない』とか、『もう縁を切ったんだ』とか」

「……うん」

「でも、あいつはわかってくれてたんだよな」

そう言って、お兄ちゃんは玲美さんを見つめた。

「俺の頭の奥の奥にしまい込んでた思いをちゃんとわかって、また会えるようにしてくれたんだな」

わたしはしんみりと聞き入った。わがままで自分勝手な行動ばかりするお兄ちゃんに怒りを感じていた時期もあったけど、そんなお兄ちゃんが愛する人に出会って、変化できたことに少し感動していた。

「お兄ちゃん、変わったね」

するとお兄ちゃんは照れた顔で、でもきっぱりと言った。

「変わったっていうかさ、あいつがくれるものに応えたいなって思うんだよ」

「そっか」

その時、黙って聞いていた凪がポツリとつぶやいた。

「すごいですね」

お兄ちゃんがまた照れて、今度はでれっと笑った。

「すごいか?」

「すごいですよ。なんかよくわかんないけど、いいです、すごく」

わたしと凪は「ね」とうなずき合って、笑った。

その様子を見ていたお兄ちゃんは、改めて凪に言った。

「それにしても凪、すげーでかくなったな。昔はくるみより小さかったのに」

「そりゃそうでしょ、もう高校生だよ、あたしたち」

「そっかー、高校生か」

そしてお兄ちゃんは、わたしたちふたりを見回して言った。

「で、なんでここに凪まで連れてきたの。なに、もしかしてお前ら、事実上の夫婦だったりするの?」

わたしは思わず咳(せ)き込み、凪は苦笑いを浮かべた。

「そんなわけないでしょ!」

「だって、なんか自然にここにいるからさ」

「凪はいろいろ詳しいから……ガイド役で」

ここでお兄ちゃんに一から説明するのは難しくて、わたしはごまかしてしまったけど、今日ここに来られたのは、凪のおかげだった。