その日の夜は、お兄ちゃんたちの家族と一緒に焼肉を食べに行った。

お父さんは玲美さんに「三人分なんだから、いっぱい食べなさい」なんて、ものすごくありきたりなことをうれしそうに言い、肉を焼いては取ってあげた。

「お父さん、あんまり無理させちゃダメよ。今は太りすぎると、病院から怒られたりするらしいから」

お母さんはそう注意しながら、まだ焼肉を食べることができない華ちゃんを抱っこしてうれしそうにあやしている。

主役は完全に玲美さんと華ちゃんで、わたしと凪、そしてお兄ちゃんは端っこで焼肉を食べていた。

「おじいちゃんとおばあちゃんがはしゃいでる」

わたしがあきれた声で茶化すと、お兄ちゃんが「久しぶりに会った息子なんてどうでもいいのな」とやけっぱちのように言うのがおかしかった。

「玲美さん、素敵な人だね」

お母さんと楽しそうに話している玲美さんを見て、凪がお兄ちゃんに小さい声で言った。

するとお兄ちゃんは、途端にでれっと照れた顔をした。

「まあな」

「お兄ちゃんがああいう人を選ぶって、少し意外だったけどね」

わたしは焼肉を頬張りながら言った。

「俺も、まさか自分があんな年上を好きになるなんて、思ってもいなかったよ」

玲美さんと華ちゃんを見つめるお兄ちゃんは、穏やかないい顔をしていた。

実家を出る直前はいつもピリピリしていて、目がつり上がっていたのに。大人になったんだな、としみじみ思った。

「でもさ、俺はあいつのおかげで人生踏み外さずに済んだ」

「え? 踏み外しそうだったの?」

なんとなく想像はしていたけど、本人にさらりと言われるとギョッとしてしまう。

わたしの隣に座る凪も、真剣な顔でお兄ちゃんを見つめた。

「出会った頃、俺は全部がうまくいかなくてやけになってた時期だったから。気持ちも生活も荒んでて……。だけどあいつと暮らすようになって、人間らしい生活を取り戻したんだ。もう二度とあの時には戻りたくないな」

お兄ちゃんの言葉に、三人が暮らすアパートを思い出した。
決して立派ではないけれど、ささやかな幸せと豊かな愛情が感じられる場所だった。