「お兄ちゃんはなにもわかってない!」

「お前はなにを知ってるんだ」

「玲美さんはね、玲美さんは今……」

そこまで言った時、凪がわたしの腕をつかんだ。

「くるみ」

凪はわたしの目を見て、顔を横に振った。それから玲美さんに視線を移した。

「どうして手紙を書いたのか、正直な気持ちをあなたが翔くんに言うべきです。あなたの家族のことなんですから」

凪の言葉に、玲美さんが目をみはった。

「わたしの家族……」

「そうです。あなたが作った、あなたの家族です」

「なんなんだよ、はっきり言えよ」

ひとりだけ状況が読めないお兄ちゃんはイライラするばかりだ。

すると、玲美さんがお兄ちゃんに向き直ると言った。

「翔ちゃん。わたし、妊娠してるの」

突然の報告に、お兄ちゃんはぽかんとなった。

「え?」

「病院にも行ってきた。十週目だって」

「うそ、だろ……」

お兄ちゃんは取り繕うことができないほど、動揺していた。

すると玲美さんは、バッグの中からエコー写真を取り出し、お兄ちゃんの目の前に置いた。

「それにね……双子なの」

「双子? 双子って……え? えー!?」

思いきりパニックに陥っているお兄ちゃんはガバリと写真をのぞき込む。

お兄ちゃんだけではなく、わたしもお父さんも、そして成り行きを見守っていた凪まで、エコー写真をのぞき込んだ。

「これが心臓。ふたつあるの、わかる?」

玲美さんが指し示すところには、確かにふたつの塊があった。

これが心臓と言われてもわたしにはよくわからないけど、そのエコー写真は確かにふたつの命が存在しているという証拠だった。

「華だけでも子育てとパートで毎日精一杯なのに、年子で双子でって考えたら不安で不安で……」

玲美さんの声がだんだんか細く、泣き声になっていく。