「お前は自分の大切な人にこんなことを言わせて平気なのか」

お父さんが低い声で言った。感情を抑えようと努力しているのがわかった。
でも、だからこそお兄ちゃんに対して本当に怒りを感じていることが伝わってきた。

「家族を守らなきゃいけない立場なのに、守られて保護されて、それでいいのか」

それでもお兄ちゃんはイライラとした顔を見せた。

「あのね、俺たちは俺たちでうまくやってるの。そりゃ父さんから見たら、いろいろ足りないところもあるのかもしれないよ。でも、俺たちは夫婦で助け合ってちゃんとやれてるんだよ。余計な口出しすんなよ」

でも、お父さんは続けた。

「お前はなにもわかってない」

「なにも、ってなんだよ」

「玲美さんがどんな気持ちでわたしたちに手紙をよこしたと思う」

そうたずねられて、お兄ちゃんは玲美さんを見つめた。

玲美さんは驚いた顔でお父さんに視線を向けた。

「彼女は不安だったんだ、これからのことが。助けが欲しくて、でもお前の気持ちを思うと直接言うことができなくて、わたしたちにあんな手紙を書いたんだ」

「不安?」

お兄ちゃんが戸惑った様子で問うと、玲美さんはうつむいてしまった。

「なにが不安なんだよ。俺だってバイトしながら仕事を探してるの知ってるだろ? お前だって、今はまだ焦らずに自分に合う仕事を探せばいいって言ってくれたじゃん」

玲美さんはなにも答えない。

「なんだよ、口だけだったのかよ。俺のこと信頼してなかったのか?」

「違う! そうじゃないの。そうじゃないの、でも……」

「なんだよ、はっきり言えよ!」

お兄ちゃんが苛立てば苛立つほど、玲美さんはなにも言えなくなるようだった。

わたしは思わず叫んだ。

「玲美さん! この、父親になっても呑気なこと言ってる奴に、はっきり言ってやってください」

「は? くるみ、お前なにいっちょまえの口聞いてるんだよ」

わたしとお兄ちゃんはにらみ合った。