「ちゃんと休んでくださいね、一応病み上がりなんですから」

「わかったよ」


手を振ってさよならし、私は対面のホームに繋がる階段を下りた。

ちょうど来ていた電車に飛び乗り、郊外へ向かう路線に乗り継ぎ、三十分ほど揺られ、目的の駅に到着する。

暑いので、ちょっと贅沢をして、歩いても行かれる距離をタクシーに乗った。


「お寺さんですね、かしこまりました」

「手前の交差点で下ろしてください。お花屋さんに寄りたいので」


はい、と運転士さんが快くうなずいてくれる。冷房の効いた車内から、かつては両親と一緒に、年に数回通った景色を眺めた。

父たちは仏花が好きじゃなかった。私は店員さんに相談し、小振りの蘭の花束を二対つくってもらった。

境内に入り、墓地への木戸をくぐる。砂利の道を少し行ったところにある水道で、手桶に水を張った。

区画整備された墓地を過ぎると、小さな野原に出る。そこに三つの石碑がある。御園家の墓だ。祖父母より先に、両親が眠ることになったお墓。

昔はここも御園の領地だったらしい。この墓地が敷地の端っこで、ここから遥か遠くの海まで、他家の敷地を踏むことなく行けたのだとか。

そんな大それた時代に生まれなくてよかった。

花を入れ替えながら、そんなことを考えた。


「しばらく来なくてごめんね」


一番新しい、小さな石碑を磨き、あたりの雑草も取る。午後の日差しはきつく、汗が胸もとを伝った。