私はカーディガンごと腕まくりをして池の中に手を突っ込む。自分が足を動かす度に泥が舞って視界がより一層悪くなってしまうのでなんとか手だけで鍵らしきものを探す。
「ねぇ、どこらへんの岩で遊んだの──?」
その時、なんの前触れもなく。
私を嘲笑うように──カシャ、という音が彼女達の返事の代わりに耳に届いた。
は?と声は喉をつっかえて、顔だけそちらに向けた。安田さんは私に向けていたスマホをしまって、そうして如何にも、わざとらしく、大根役者をそれまた演じた。
『ああーっ!鍵あった〜!ポケットの隅に入ってたーっ!』
『良かったじゃーん。もう心配させないでよ』
『あったならそれで良かったけどさあ〜』
安田さんに連なるようにして言葉を続けていく両隣。明らかに演技の最中に私を楽しむように嘲笑しながら、ちらりと視線を滑らせてきた。
『春井さん、ごめんねえ?私のために地面に顔つけて、ゴミ箱の中漁って、終いには汚い池の中に入ってもらっちゃって』
『しかも青井くんの前でさ!謝ってもだめだよねえ、怒ってもいいよ』
薄々気づいてた。鍵を失くした割に全然平気そうで、隙ある事にアオに話しかけて、一向に探そうとせずに、私が必死になればなるほど含み笑いを我慢してひそひそしていたことも。
良い子ぶって、言葉巧みに私を誘導して最後には私を悪者にしようとしてる悪知恵ばかり働く心底腹が立つ作り笑顔。
この汚い池の水を思いっきり腕全身を使ってそちらに飛ばしたのなら、彼女達の醜い心を宿したその身体に、お似合いの泥水がつくだろうか。