『お前さあ、物事軽く考え過ぎなんじゃねえの』
「そんなことないし」
『そんなことない奴は好きな人がいんのに簡単に偽装カップルやったりなんかしねえから』
図星。ごもっと。その通りである。でもそこで負けたくない面倒な性格が表に出てしまう。
見下ろすアオを強気に見上げ、反論の唇を用意する。
「誰かのためにだもん。仕方ないじゃん」
『だからそれをやめろって俺は言ってんのなんでわかんねーの?』
「アオの気持ちなんかわかんない。自分だって結局好きな人いるくせに偽装カップル承諾してんじゃん」
『・・・その通りですね。──男は好きでもない女と余裕で一線超えられるって知ってる?』
そう“無”で言い放ったアオは、私の顎を細く長い指で掬いあげる。私の生意気な唇に挑発的にアオの唇が近づいた。その瞳は静かな怒りと悲しみに満ちている。
「アオはそんなことしない」
『ハルは俺じゃない。よく言いきれるね、そんな戯言』
アオはくつくつ、と愉しそうに悲しそうに切なそうに、何もかも投げやりに微笑を零した。アオのさらさらな前髪が私の顔に柔らかく触れる。