くい、とドヤ顔で眼鏡を上げる振りをするアオを私と遠山先輩はその続きを待つ。するとアオは私をビシッと指さす。
『ゴリラのことならハルにお任せ下さい。こいつ毎日ゴリラ観察してるんで』
「してねーわ」
『え?冗談やめて。お前がいつも双眼鏡越しに眺めてるのは正真正銘ゴリラだろ』
「人間だわ」
まだ何か反論しようとするアオをビンタして黙らせ、びくっとした遠山先輩へと視線を戻す。遠山先輩は苦笑いをしながら頬を指で掻きながら本音を零す。
『俺も、君らみたいに遠慮なく言い合いできる位の仲ならいいんだけど、彼女との沈黙が怖くて』
「沈黙?」
『うん。何か話さなくちゃって、嫌われたくなくて、一生懸命話題探して話すんだけど、2人きりだとやっぱり無言になる時があって、その時の緊張ったらなくて』
困ったように笑う遠山先輩を暫く見つめる。そうか、デートというか、もしかしてこのことについて相談したかったのではないだろうか。
少しでも、2人の初デートが幸せな思い出として終わってほしいと思った時、キュピーンと光が頭の中を通過した。