そうして左手に持っていた本のブックカバーをぺらりと剥がした。
『この子、真奈美ちゃん』
『・・・え?』
『だから俺が好きな子。真奈美ちゃん』
青井は躊躇うことなく自身の手中に収まる少女漫画を指指す。更に細かく言えば、その表紙を飾る1人の女の子を真顔で。
彼の指さす“マナミチャン”とやらは小顔な上に宝石が詰まった瞳が顔の4分の2を占め、米3粒しか入らなさそうな口。現実にいたらホラーである。
女子生徒は頭が追いつかず、笑顔が途中で固まって引き攣っている。
『俺は真奈美ちゃん一筋だから』
そう言って盛大に優しげな顔の無駄遣いをする青井。表紙の真奈美ちゃんを幸せそうに見つめている。一見したら危ない奴だ。一見しなくても危ない奴だった。
女子生徒は突拍子もないそれに信じる事ができなかったらしい。思わずと言った様子で自分が予想していたであろう答えを青井にぶつけた。
『青井くんはてっきり春井さんが好きなのかと・・・』
ああ、出たよこれ。と双眼鏡を装着する私は無意識に唇がへの字にひん曲がる。