『青海ってば!』
バシ、と肩を叩かれてようやく何度も夏子に名前を呼ばれていたことに気づく。謝りながら椅子に座ったままの私は夏子を見上げて微笑む。
「ごめん、なに?」
『拓人くんのところ行くけど、青海も行く?』
「あー・・・いいや、待ってる」
『・・・そういえば、今日3年生登校日だね』
「え?あ、そうだったね」
片手に可愛くラッピングされたそれを持っていた夏子は、中身が空っぽな私を見兼ねたように溜息をついた。私の前の席の椅子を引くとそこにドカッと腰掛ける。
もう2月になってから2週間が経ち、2月14日の本日はバレンタインデーだ。夏子の片手に収まる物は拓人くんへだろう。
『────・・・青井くんと何かあったの』
夏子は足を組んで座る。私の方は向かずに横向きのまま、真っ直ぐと遠くを見つめながらそれだけを零した。私が過剰に反応したので、ちらりと視線だけを送ってきたがすぐに逸らされた。
修学旅行から帰ってきて今まで、一度もアオと上手く話せていなかった。
帰ってきた当初は顔を合わせてもお互いに逸らして、少し経ってからは無理矢理今までを装ってみても、あまりにもぎこちなくて、結局今では会話も、顔すら合わせていない。