すると、黙りこくっていたアオがこてん、と私の頭に頭を預けてきた。身体の左半分がアオの熱に、香りに、侵食される。
『・・・・・・ありがと、ハル』
「別に。っていうかさ、なに、誕生日って。聞いてないんだけど」
『聞かれてないもん』
アオの声が外に落ちる度に、身体から声を震わせる振動が私に心地好いものを与える。
「いや言えよ。何も用意できなかったし」
『今日一緒にいてくれたじゃん』
「そんなのいつだってできるじゃん、プレゼントないもん」
『別に要らない』
「他の皆は知ってたからあんなに誘ってきたんでしょ」
『いや俺はいつでも人気です』
「・・・・・・。」
『ごめんて。ごめんなさいって』
はあ、と呆れと知らなかった自分を恥じながら溜息を吐く。電車内の人達の視線を時々感じながら特に体勢を変えず言葉を紡ぐ。
「そっち行った方が色々祝ってもらえただろうに」
『自分の特別な日ぐらい一緒にいたい奴誘っちゃだめかよ』
「え?」
『駄目ですかー。バースデーボーイが自らプレゼント選んじゃだめですかー』
極自然に落とされた言葉に、身体中が熱くなりそうなのを誤魔化すように毒づく。アオは私の頭の上に頬を乗せているので奴がどんな顔をしているのかわからない。
「安上がりな奴」
『ばーか。どんなプレゼントよりも嬉しいんだからな』
「・・・ばかはお前だ」
『じゃあ大馬鹿』
「おおおおおおおばか」
『うっせ』
ぽつんぽつん、と零されるお互いの静かな言い合い。段々私の最寄り駅が近づいてくる。