「いやーほんとに助かった。ありがとね。」
『いや別に。でも俺、ストーカー行為に加担したって思われるのは嫌なんで、あんまり犯罪重くしないでね』
「大丈夫。寸土目するから」
『・・・あっそう』
不安そうな彼の目を気にせず、さっさと1年2組に向かって歩き出す。彼も長い足ですぐに私に追いつくととろりとろりと横を歩いてくる。
『・・・春井さんはさ、』
「春井でいいよ。私、春井 青海。今更だけどよろしくね」
『じゃあ俺も青井って呼んで。青井 紫春』
「おっけ。で?なに?」
2人で窓から差し込む西日に目を細めながら廊下を歩く。
彼が無意識に放つ、冷たそうなのにどこか柔らかな独特の雰囲気は、ついそれを壊して核心に触れてみたくなるほど妖美だ。
彼は眩しそうにしながらも窓の奥の景色を眺める。
眉間に皺の寄るその顔は日光にはまるで弱そうなのに、懸命に抗うように、逆らうように、ただ漠然とした瞳でさ迷うようにひたすら西日を追いかけている。
『─・・・春井は先輩とくっつける勝算はあるの?』
不意に言葉の続きが落とされた。